コックピット日記

「コックピット日記」は5人の機長が毎月交替で、パイロットに関する話や日常の乗務で出合ったこと、ちょっとした役立つ情報などを、読者の皆さまにお届けするエッセイです。

Captain 161 ファーストフライト文=南雲 恒昌 (ボーイング 767 機長)


初めて自転車に乗った時のこと、初めて車を運転した時のこと――皆さまも初めて経験した出来事は、とても記憶に残っているのではないでしょうか。私は、これまでに小型機を含め4機種の航空機を経験してきました。初めて1人で小型機を操縦した時のこと、機長として初めて操縦桿を握った時のことなど、私たちパイロットにも忘れることのできない初めての経験があります。今回は、そのような「ファーストフライト」についてお話しします。
なかでも、私にとって心に残っているのは、訓練生の時の初めてのソロフライトと、機長としてのファーストフライトです。

ソロフライトとは、事業用操縦士の免許を取得する過程で、教官が同乗せずに1人で小型機を操縦する訓練をいいます。パイロットの間で、初めてのソロフライトは「初ソロ」と呼ばれ、エアラインパイロットにとって最初の大きな節目です。約1年半にも及ぶ訓練で入念に準備をしているため、不安や恐怖よりも、期待に胸をふくらませていたことを覚えています。初ソロの後は、シャツの背中部分をハサミで切り取って、お世話になった教官からサインをもらうのがパイロットの世界の習慣です。当時、私は教官から「GoodJudgementで飛ばしなさい」という言葉をいただきました。それを教訓に、767の機長としてファーストフライトを迎えました。機長として初めてお客さまをお乗せした時の責任の重さは、決して忘れません。そして、どんな時も最良な判断を下せるパイロットとして、操縦桿から離れるその日まで安全運航を守っていくと誓いました。
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さて、私はこの春から「飛行教官」を務めることになりました。機長、副操縦士の技能維持や昇格の訓練を担当します。飛行教官は、機種ごとに4つの担当に分かれています。教官になるためには訓練を行い、担当ごとの教官資格を取得していかなければなりません。私たち教官の使命は、安全の堅持と優良な乗員の養成です。機長、副操縦士が独立した職務を持ち、そのチームパフォーマンスを高めていくことが大切なのです。


私は、今回のエッセイを最後に、教官職に専念することになりました。バトンタッチをする相手は、先日ファーストフライトを迎えた新進気鋭の機長です。これからは、新しい世代の育成に携わりながら、ファーストフライトを後押しできる教官を目指します。長い間、お付き合いいただき、ありがとうございました。

日本航空 月刊誌『AGORA』より(2003年から連載中)