コックピット日記

「コックピット日記」は5人の機長が毎月交替で、パイロットに関する話や日常の乗務で出合ったこと、ちょっとした役立つ情報などを、読者の皆さまにお届けするエッセイです。

Captain 159 着陸から駐機まで文=筒井淳夫 (ボーイング 737 機長)

 読者の皆さま、こんにちは。私たちパイロットは、上空で航空機を操縦するイメージが強いのですが、地上でも大きな機体を操作しなければなりません。今回は、着陸後から駐機スポットに停止するまでの地上走行についてお話しします。
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 着陸後、地上走行に切り替わると、パイロットは、操縦桿ではなく主に操縦席の脇に付いているステアリングハンドルを使って航空機を動かします。737-800の全長は39.5m、幅は35.8m。空港によっても異なりますが、航空機が通る地上の道「誘導路」の道幅は、狭いところで23mほどしかなく、両翼が約6mずつはみ出した状態で走行しています。そのためコーナーを曲がる際、翼端と標識などがぶつからないよう、翼の大きさと内輪差を考えながら慎重に操縦しています。冬場、雪の多い空港では、誘導路の脇に集められた雪の塊にも当たらないよう注意しなければなりません。

 更に、737-800の場合、操縦席の高さは地上から約3m、機体の先端までは約3mあり、パイロットは操縦席から前方約14m下側が見えていない状態で操縦しています。駐機スポットに入る際には、停止線が見えないため「マーシャラー」と呼ばれる航空機誘導員の誘導が必要不可欠です。マーシャラーは、車両に付いた昇降機に上って、「パドル」と呼ばれる大きなしゃもじ型の道具やライトを持って、正確な停止位置へと航空機を誘導してくれます。マーシャラーの姿を見ると、"ただいま"と帰ってきた思いがするのです。

 しかし、実はここ数年で、マーシャラーに代わり「VDGS* (駐機位置指示灯)」が設置された駐機スポットが増えています。この装置は、赤外線レーザーを使って航空機の位置や速度を正確に測定し、電光掲示板に停止位置までの残りの距離や左右のズレを表示してくれるものです。国内では、中部国際空港、成田空港、羽田空港で導入されていて、操縦席から見て、正面のターミナルビルの壁にあるスポット番号の近くに取り付けられています。次回ご搭乗の際は、スポット番号の近くにある電光掲示板に注目してみてください。

 パイロットにとって地上走行は、飛行中や離着陸時と同様に多くの訓練や経験、技術が必要とされます。私は、特に地上走行の開始や停止、旋回の際、快適性を損なわないようゆっくりと丁寧な操縦を心掛けています。皆さまが降機する最後まで安全にお見送りすることが、パイロットの仕事なのです。

*Visual Docking Guidance System

日本航空 月刊誌『AGORA』より(2003年から連載中)