コックピット日記

「コックピット日記」は5人の機長が毎月交替で、パイロットに関する話や日常の乗務で出合ったこと、ちょっとした役立つ情報などを、読者の皆さまにお届けするエッセイです。

Captain 166 雪への備え文=椎名 拓(ボーイング777 機長)


 あけましておめでとうございます。寒さが厳しいこの季節、皆さまはいかがお過ごしでしょうか。今回は、冬の運航における出発前の準備についてお話しいたします。

 この時季は、雪が運航に大きな影響を与えるため、さまざまな対策が必要となってきます。航空機は、主翼の上下面に風を通すことにより飛ぶことができ、その主翼の断面は揚力を発生させる特殊な形をしています。しかし、その主翼に雪が積もると断面の形が変わり、必要な揚力を得ることができません。そのため、私たちパイロットは、"KEEP IT CLEAN"という冬期運航の大原則のもと、機体に付着した雪や氷を除去し安全な離陸に備えています。写真

 降雪時には、機体に積もった雪を取り除き、雪が積もらないようにする作業を行わなければなりません。これは、パイロットがその時の状況で判断し、地上スタッフと連携して、クレーン車のような「ディアイシングカー」という作業車を使って「防除氷液」を機体に散布します。 皆さまは、翼の付け根付近に黒い帯状のペイントや、黒枠の黄色いシールが貼ってあるのをご覧になったことがあるでしょうか。実はこれ、防除氷液の有効性を確認するための目印なのです。パイロットは機内から、これらの目印や機体番号、塗装の見え方などをチェックしています。

防除氷液にはさまざまな種類があり、離陸に影響を及ぼす気象現象、外気温、降雪の強さなどによって有効時間が定められています。この時間を「ホールドオーバータイム」といいます。離陸前にホールドオーバータイムを超えないよう、タイミングを見計らいながら作業を行います。そのため、出発時間の遅れなどお客さまにご迷惑をおかけしてしまう場合もありますが、安全運航のための必要な手順ですので、ご理解いただけますと幸いです。また状況によっては、地上走行中に、一定間隔でパワーを出しエンジンンに付着した雪や氷を飛ばす「エンジンランナップ」という作業を行うこともあります。
このように冬の運航は、私たちパイロットにとって、季節特有の念入りな準備が必要です。しかし、コックピットから見える幻想的なオーロラや、滞在先で出合う冬の味覚やクリスマスマーケットなど、冬ならではの楽しみもあります。

一人でも多くのお客さまが冬の空の旅を満喫できるよう、私たちパイロットをはじめ日本航空のスタッフが一丸となって準備しておりますので、安心してご搭乗ください。

日本航空 月刊誌『AGORA』より(2003年から連載中)